2016年度宇宙電波懇談会シンポジウム |
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日時 :2017年2月22日(水) 10時00分から23日(木) 16時30分 |
場所 :国立天文台三鷹大セミナー室 |
テーマ:「若手研究者の本音とシニア層の本音:研究の多様性と深さを今後も追求するために」 |
世話人:大西利和(宇電懇運営委員長)、古屋玲(宇電懇運営副委員長)、河野孝太郎,本間希樹、坂井南美、田村陽一 |
【背景】 宇宙電波懇談会は、電波天文学の研究コミュニティを代表する組織である。その活動はコミュニティが一丸となり、 大型装置計画を実現することに主眼が置かれていた。過去20年ほどを振り返れば、アルマ計画の実現がコミュニティ としての悲願であった。アルマが実現した今、宇電懇の果たすべき役割は大きな曲がり角にある。我が国の電波天文学 者が現在行っている研究は、どの評価軸で見ても多様性に満ちていることがその要因である。具体的には、共同利用観 測やアーカイブデータを用いて個人が行う研究、大学などに基盤を置く小規模なグループの行う研究から国立天文台が 主導すべき次期大型計画に至るまで、枚挙に暇がない。研究活動の多様性の発芽によって、サイエンスや装置開発に於 いて我が国の研究者は世界において独歩的な地位を築いた。この流れをより強固なものにするために、これまで以上に 互いの研究内容を把握しあい、新たなシナジーがコミュニティのあちこちで発生するように仕向ける責務が宇電懇には ある。
【現在の問題点と解決の方向性】 上述のように電波天文学コミュニティーはアルマの「産みの苦しみ」を経験し、果実としての科学的成果を摘み取る ことに専念できる段階にある。これ自体は喜ばしいことであり、コミュニティとしての成熟を想起させる。夢の望遠鏡 を手に入れて渇望感が満たされた今、コミュニティが30年先の研究の様相を具体的に描ききれていないのは確かである。 低周波数帯では SKA-1/2やそのpathfinder、ngVLAへの参加構想が活発に議論され、ミリ波サブミリ波帯での超高 感度偏波観測技術を活かした新しい方向性としてのLiteBIRDも含め、南極THz望遠鏡や大型サブミリ波単一望遠鏡 LSTも議論されている。また、ALMA拡張計画など高周波数帯の計画も目白押しである。こうした多様性を尊重しつつ、 コミュニティー全体で取り組む次世代大型計画を絞り込む道筋が未だに具体的に見えていない。一方若手は日々膨大な データや相次ぐプロポーザル締切に追われ、昨今ますます厳しくなる若手研究者・教員ポスト環境も相俟って、長期的 な視点で自分の研究の大きな方向性をじっくり考える余裕がないまま、目先の研究業績を増やすことに専念せざるを得 ない、厳しい状況になっている。一連の弊害は、昨今の宇電懇シンポジウムにおける議論の低調さや若手の参加が限定 的であることにも顕在化している。我々、宇電懇運営委員会はこの現状に危機感をもっている。
そこで、一昨年度から2年間は、電波天文分野以外の研究者を中心にお招きし、電波天文コミュニティが日本の天文 学研究において果たすべき役割を指摘していただき、議論を行った。現在の研究活動の活発さを更に高めるために、次 で示した対極的な性格のグループから問題提起をしていただいたうえで、 中長期的にコミュニティが目指すべき方向 性を議論する場を企画する。
これを実現するために、以下の2つについて主なセッションを設ける。
1)主に博士号取得後数年以内で現在一線の研究を推進しつつある若手研究者を中心に、自身の最先端研究について講 演してもらう。さらに今後5〜10年程度の時間スケールでの研究ビジョンを必ず語ってもらう。ここでは科学的 議論だけでなく、若手を巡る研究環境に関する要望や意見の表明がなされることも期待している。
2)推進中の将来計画については、これまでの進捗について例年通り講演してもらい、改めて将来の方向性に関する議 論を行う。この際、1)で登壇する若手研究者や会場の若手研究者にプロジェクトを推進している中核的な研究者 が何を期待しているかについても具体的に示してもらう。
このように大きくわけてふたつの立場での講演・議論を踏まえたうえで、総合議論を行い、将来の天文学研究を中心 的に担う若手研究者と、将来計画の推進側であるシニア層研究者の相互理解を深める場を設けたい。電波天文学の将来 像に関し、さまざまな世代それぞれの問題意識を共有することを今回のシンポの直接的な獲得目標とする。 |
プログラム:
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1日目(2月22日)
10:00
- 10:05 大西利和(大阪府立大)「本シンポジウムについて」
Session 1: プロジェクト報告(I)
10:05 - 10:25 南谷 哲宏(国立天文台)「Nobeyama 45-m Telescope:
Present and Future」
10:25 - 10:55 中井 直正(筑波大)「南極望遠鏡」
10:55 - 11:25 関本 裕太郎(国立天文台)「LiteBIRD」
Session 2: 若手研究者の本音 vs. シニア層の本音(I)
11:25 - 11:45 山本 智(東大)「Why
chemistry? Why astronomy? 」
11:45 - 13:00 昼食休憩、ポスターセッション
13:00 - 13:30 樋口 あや(理研)「研究(星団・惑星形成)・評価活動(45m・ALMA)・教育経験を振り返って-
将来に向けて思うこと-」
13:30 - 13:50 濤崎 智佳(上越教育大)「未知との遭遇と異文化交流:教員養成学部の天文学」
13:50 - 14:20 大橋 聡史(東大)「化学組成と物理状態から探る分子雲コアと星形成(星形成研究の多様性と深さを追求するために)」
14:20 - 14:30 福井 康雄(名古屋大)「新しい研究の潮流をつくろう」
14:30 - 15:00 元木 業人(山口大)「星形成研究は原始星表面にたどり着けるか?〜アレイ拡張の果てに見る夢〜」
15:00 - 15:16 ポスター紹介
15:16 - 15:45 休憩、ポスターセッション
15:45 - 16:15 佐野 栄俊(名古屋大)「星間物質の精査を軸にした超新星残骸の探究」
16:15 - 16:35 岡 朋治(慶応大)「銀中研究に関する僕の本音」
16:35 - 17:05 赤堀 卓也(鹿児島大)「UHF全帯域観測で探る宇宙磁場・パルサー・突発現象・星間物質」
17:05 - 17:20 三好 真(国立天文台)「へら絞り法による2mサブミリ波用dishの開発--ブラックホール解像にむけて」
17:20 - 17:50 小嶋 崇文(国立天文台)「ミリ波サブミリ波帯受信技術の研究とALMA受信機の将来技術開発」
17:50 - 18:10 川邊 良平(国立天文台)「Beyond ALMA」
18:30 - 懇親会(コスモス会館食堂)
・2日目(2月23日)
Session 3: プロジェクト報告(II)
09:00 - 09:30 井口 聖(国立天文台)「ALMA」
09:30 - 09:45 伊王野大介(国立天文台)「ASTE」
09:45 - 10:00 大西 利和(大阪府立大)+古屋 玲(徳島大)「East Asian
Observatoryについて」
10:00 - 10:30 高橋 慶太郎(熊本大)「SKA」
10:30 - 10:50 河野 孝太郎(東大)「ngVLA報告」
Session 4: 若手研究者の本音 vs. シニア層の本音(II)
10:50 - 11:05 青木 貴弘(山口大)「SKA-JP Engineering Working Group 活動報告と時間領域天文装置の方向性」
11:05 - 11:25 藤沢 健太(山口大)「広視野高時間分解能望遠」
11:25 - 13:00 昼食休憩、ポスターセッション
13:00 - 13:20 河野 孝太郎(東大)『「データとプロジェクトの大洪水時代」に考える(電波)天文学の今後』
13:20 - 13:50 江草 芙実(国立天文台)「多波長データで探る近傍渦巻銀河の起源」
13:50 - 14:20 泉 拓磨(東大)「活動銀河中心核、来し方行く末
10年ver. 」
14:20 - 14:35 松尾 宏(国立天文台)「スペーステラヘルツ干渉計の提案」
14:35 - 15:15 休憩、ポスターセッション
15:15 - 15:30 古屋 玲(徳島大)「天文学会キャリア支援委員会を知っていますか?」
15:30 - 16:00 全体討論(I)若手の言い分 vs シニアの言い分(司会:田村 陽一)
16:00 - 16:30 全体討論(II)日本学術会議マスタープランに向けた議論(司会:大西 利和)
【ポスター発表】
1. 市來 淨與(名大)「SKA-JP サイエンスワーキンググループ活動報告」(口頭講演・ポスター)
2. 今井 裕(鹿児島大)「HINOTORI: 3バンド同時VLBI観測実現に向けて」(口頭講演・ポスター)
3. 坪井 昌人(宇宙研/JAXA)「深宇宙探査用新54mアンテナ:GREAT計画の進捗」(口頭講演・ポスター)
4. 杉山 孝一郎(茨城大)「茨城(日立)32-m電波望遠鏡を用いた長期的かつ高頻度な6.7GHzメタノールメーザーモニター観測」(口頭講演・ポスター)
5. 徳田 一起(大阪府立大)「ALMA Observations
of a High-density Core, MC27/L1521F in Taurus: Dynamical Gas Interaction at the
Possible Site of a Multiple Star formation」(口頭講演・ポスター)
6. 山口 正行(東大/国立天文台)「スパースモデリングによる原始惑星系円盤HD142527の超解像イメージング」(口頭講演・ポスター)
7. 上原 顕太(東大/ISAS-JAXA)「分子雲衝突による銀河系中心50km/s分子雲での大質量星形成」(口頭講演・ポスター)
8. 小林 将人(名大)「Evolutionary
Description of Giant Molecular Cloud Mass Functions across Galactic Disks」(口頭講演・ポスター)
2017年6月29日更新